競合の商品から逆算した品揃えにより既存顧客の売上を伸ばした地方の食品卸
※この事例は顧客情報への配慮から、一部のディテイルを変更して紹介しています。
イントロダクション
昔々(といってもたかだか20年くらい前の話ですが)、東京ではやっている商品を地方に持ってくるとそれだけで取引が決まった時代がありました。しかし、市場が成熟し、情報サービスのインフラが整ったことによって、このような情報のアービトラージとでもいうような戦術は有効に機能しなくなったと思われています。しかし、本当にそうでしょうか。いちはやく良い商品を仕入れ、いちはやく正しいターゲットに届ける。その原則は変わらないのではないでしょうか。この事例は卸としてある種の王道パターンを守り続ける会社の話です。
お悩み ―現代の業務用食品卸、その一般的課題。あるいは価格競争の果ての風景
現在は本業に回帰しだしの専門店を標榜する私たち節辰商店も、かつては「総合食品卸」の看板を掲げていました(現在も売上の半分は他社取り売り商品の卸です)。だから、中小業務用卸の課題は痛いほどわかります。規模の経済(正確には「範囲の経済」や「密度の経済」なのですが説明は省きます)で攻勢を行う大手と戦うことが消耗線の様相を呈しているのです。際限なき価格競争ほど企業を疲弊させるものはありません。「中小企業庁の経営指標」(中小企業庁編)を経年で追っていくとわかりますが、中小食品卸は売上高・利益率とも年々減少していっています。
きっかけ ―伸びている市場で頑張る
この企業は競合の業況と、品揃えを徹底的に研究しました。特に大手液体調味料メーカーの特約店が売上を伸ばしているようです。それ以外の競合は自社とあまり品揃えは変わりませんでした。「このエリアでは液体調味料が伸びている」「とはいえ、競合と同じ商品を扱っても価格競争に堕し兼ねない」。必要なのは特徴ある液体調味料でした。
解決策 ―対競合戦略商品
節辰商店のめんつゆ・液体だしは「だし」を中心に設計されています。競合が強く推す大手メーカの商品がエキスを中心に組み立てられていたことは幸いでした。おいしさの基準は人によって千差万別。この業務用卸はおそらく節辰の商品を選考する層が一定の割合で存在するだろうと仮説を立てました。そして、節辰の「そばつゆ」「本うどん」「だしつゆ」「だし楽」を対競合の戦略商品として位置付けることにしました。
その後 ―トンネルの先へ
このエリアでは、液体調味料を巡る熾烈なシェア争いが始まりました。まだ、この企業は劣勢かもしれません。しかし、大口の取引が決まる等、明るい話題が序々に生まれています。長いトンネルをやっと抜けた気がしています。